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◆みんなで創る小説Ragnarok ♂萌え2冊目◆

[88:鳥×剣士:キスと口笛(2008/05/24(土) 18:46:04 ID:ikwXfrKc)]
真新しい剣士の装束に身を包んだ少年は、文字通り唇を尖らせていた。
考え込むように眉をひそめ、僅かに首を傾げてから、そっと息を吹く。
尖った唇から漏れるのは、空気の抜ける音ばかり。
「ぐあーやっぱり出来ない!」
頭を抱えて剣士が叫ぶと、その一部始終を見守っていたバードが、笑いながら声を掛けた。
「そんなに難しいものじゃないよ?」
そう呟くと、彼はヒュウ、と口笛を吹いた。
「ほら」
バードが剣士を見れば、彼は途端に不機嫌そうな顔になった。
「何で出来るんだよ!」
「何で、と言われてもねえ」
今にも掴みかからん勢いの剣士に、バードは苦笑して呟いた。
魔物の気を引くために、口笛を覚えたい。
そう言って、剣士が口笛を教えて欲しいとバードに頼んできたのが、数刻ほど前の話である。
教えるほどの事でもないだろうと思いつつも、バードは簡単な説明をし、実際に吹いて見せたりもしたのだが、
剣士の唇からは一向に笛の音らしきものは聞こえてこなかった。
何度やっても、聞こえるものは空気の抜ける音ばかり。
「気がついたら、自然に吹けるようになってたからなあ」
バードは口笛で、簡単なメロディーを奏でてみせる。
「そのうち、ある日突然吹けるようになったりするんじゃない?」
そう言って、バードは剣士を見るが、彼に納得するような素振りはない。
「そのうち、じゃなくて、今吹けるようになりたいんだってば」
剣士はそう言うと、もう一度唇を尖らせて、考え込むような表情をした。
必死に口笛を吹こうとしている剣士を見ているうちに、バードの中に、ちょっとした悪戯心が湧きあがった。
ひっそりと唇に笑みを乗せると、バードは悪戦苦闘している剣士の傍へと近付いた。
「少し力を入れすぎなんじゃないかな?」
剣士の頬に、バードはそっと手を当てた。
ぴく、と剣士の目元が震えた。
「もうちょっと力を抜いて」
「どんな感じ?」
剣士が見上げてくると、バードは頬に添えたのとは反対の手で、剣士の肩を押えた。
訝しげな顔をする剣士に、自らの顔を近づける。
見開かれた剣士の目の中に、バードの姿が映りこむ。
剣士が何かを言うより早く、バードは自らの唇を、尖らせたままの剣士の唇に重ねた。
「……こんな感じ」
すぐに唇を離したバードが、小さな声でそう囁く。
硬直している剣士の目の前で、ヒュウと唇を鳴らして見せた。
「……な、に、してんだよっ!」
我に返った剣士が、慌てた様子でバードを突き飛ばした。
「酷いなあ、教えてあげただけじゃないか」
よろける様子も見せずに、バードが剣士から離れる。
にやにやと笑うバードの目の前で、剣士は顔を真っ赤にしながら、口元をごしごしと拭った。
「この分だと、キスもあまり上手じゃなさそうだねえ」
「何の関係があるんだよ!」
分かってないなあ、とバードは肩を竦める。
「好きな子にキスするような、ちょっと尖ったぐらいの唇で、優しく息を吹くと良いんだよ」
「信用出来ない……」
「そう、じゃあもう一回やってみる?」
ひょい、とバードが近寄れば、剣士はぶんぶんと首を横に振った。
「分かった、分かったからキスの話はもういい!」
恥ずかしさのあまり大声で叫ぶ剣士を見て、予想以上の反応だと、バードは満足げに笑った。
ここまで可愛く振る舞われると、もっと悪戯してみたくなるのだが、それは流石にまずいだろう。
次の機会があるならば、とバードは胸中で呟く。
次の機会があるならば、剣士が口笛を吹けるようになった時だろうか。
キスとどれだけ似ているのか、もう一度教えてやれば良い。
「……練習してやる」
「キスの?」
「口笛!」
未だ赤いままの剣士に、バードは声を上げて笑った。


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