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◆みんなで創る小説Ragnarok ♂萌え2冊目◆

[87:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2008/02/06(水) 23:23:25 ID:XZK4RBM6)]
 キィルがベッドの住人になって、一週間になる。理由は右足の骨折。
 凍結した玄関先で滑って転んだ、という原因が少々情けない。
 年のせいなのか、それともキィルの信仰心が足りなかったせいなのか、ヒールを何回か
使っても骨折を完全に治すことができなかった。
 愛用のチェインとプリーストの法衣を横目に、ベッドで大人しくしていて一週間。
 窓から見られる外の景色がわずかな慰めだ。
 一週間も観察していると、街角の花売り娘が郵便馬車の御者にホの字らしいとか、町の
案内人の中になにやら良い雰囲気の男の二人組みがいるとか、普段は気づかない人間模様
までわかるようになってしまった。
 この数日は冷え込みが厳しい。今も小雪がちらちらと舞っている。
 相方のアークはどこにいるのだろうか、とキィルは枕元に置いていた冒険者証を手にと
った。
 「この部屋に、大男二人は狭くて敵わない」、そう苦笑いしてアークは出かけて行った。
本当のところは、自分がキィルよりも冒険者としての位が低いことを気にしているのだ。
そこで、今のうちに追いつこうと励んでいるらしい。そのくせ、泊りがけで狩る事はなく、
必ずその日のうちに帰ってくる。そしてキィルの傍らで眠るのだ。
 キィルは冒険者証のパーティー情報欄を覗き込む。自分とアーク、二人の名前の横にそ
れぞれの現在地が示されていた。自分はプロンテラ街中、アークはモロクだ。
 ころころと変わる居場所がアークの飽きっぽい性質をよく表している。今日だけでも、
グラストヘイムのカタコンベ、オークダンジョン2F、ピラミッド地下、と場所を移してい
る。
 モロクに居るならば、プロンテラに帰ってきたときの寒さは堪えるだろう。相方のため
に温かい茶の一杯すらも準備できない自分が恨めしい。がちがちに固められたギプスに思
わずため息がこぼれた。
 視線を横にめぐらせば、窓に白髪が混じった青髪の男の顔が映っていた。自分の顔だ。
外はいつの間にか薄暗くなっている。街頭も灯りだした。
「腹減ったなぁ」
 動かなくても空くものは空く。今晩は何を買ってきてもらおうかとキィルは考える。簡
易キッチンがついているアパートに住んではいるが、キィルもアークも料理の腕は壊滅的
に悪い。自然、食事は外食やテイクアウト中心となっている。
 冒険証に浮かぶ相方の名前を無骨な指でなぞれば、それに合わせたかのようにパーテ
ィーチャットの回線から声が聞こえた。
『キィル、そろそろ帰るわ』
 夕飯、何がよいか? と言葉が続く。
「ミルクシーチュー以外なら何でも」
『カルシウムは今のお前に必要だぞ? じゃなきゃ怪我も治らないぜ』
 その主張は最もかもしれないが、さすがに一週間もそれを食べ続ければ飽きてくる。
「牛乳以外でもカルシウムは取れるぞ。たとえばアマツの料理で小魚を丸ごと食べるのと
かあるだろう」
『俺、魚は嫌いだ。骨を取るのが面倒だし、目玉が睨んでくるし』
 子供のように駄々をこねはじめた相方に、自然とキィルの顔に苦笑が浮かんだ。まもな
く四十路だというのに、アークのこういう子供っぽいところは昔から一向に変わらない。
 やがて、テイクアウトの食事を抱えてアークが帰ってきた。
 アークのファルコンを別室に休ませて、二人は共に食事をとる。
 キィルの分は魚、自分の分は肉を買ってきたのはアークなりの妥協だろうか。二人の好
物であるクレソンの入ったサラダはたっぷりと。スープはじっくりと煮込んだオニオン
スープ。
 食欲が満たされるのを感じながら、キィルはアークに問うた。
「今日は何してたんだ?」
 セロリをかじりながら、アークは答える。
「ん。カタコンで神速な美人プリさんとアイアンドライバーできめてるプリさんとか眺め
て、OD2で可愛いケミさん見つけて、ピラ地下でいちゃつく騎士BSに嫉妬したりとか」
 スープを一口すすり、アークは破顔する。
「今日も一日眼福だったぜ。枝のエルメスを観察していて逃げ遅れたのは誤算だったけど
な」
 なお、アークの鑑賞対象はたいてい男性である。美人や可愛いという形容詞がついてい
ても、男性だ。このあたりの感覚をキィルは未だに理解できていない。
「アーク、楽しそうなのはよいが、もう少しまじめに周りを見られないのか? よもや声
はかけてないと思うがばれれば変態扱いだぞ」
 肉をつまみながらアークが不機嫌に答えた。
「ばーか。これぐらいやっておかないと一人でLv上げなんかかったるくてやってられるか
よ」
 最後の一切れを咀嚼した後、彼は言った。
「お前と一緒ならどこでも楽しいんだけどな。だから、さっさと治してくれよ」


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