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【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第14巻【燃え】

[19:ブルー&ジェット1/4(2007/11/27(火) 23:40:01 ID:OlhyQDOY)]
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 絹を裂くような乙女の悲鳴……。
 等と描いてみれば聞こえはいいが、実際には乾いた雑巾を無理矢理引きちぎる音に近い。現世の
なんと風情の無い事か。まったく、現実こそが正に儚いものであって欲しいものである。
「そんな事を言ってる場合でもないな。ゆこうか、相棒」
「クワーッ! クエックエッ!」
 大型の鳥類の返しの鳴き声と共に、その男は悲鳴の元へと歩みを進めた。
 その井出達はナイト――堅牢な鎧を纏いて颯爽と戦場へ躍り出る騎士である。頭にヘルムとサン
グラス、腰には無骨な大太刀を帯びて、歩む姿は駆け抜ける旋風の如く明朗快活刃の如し。
 その男の左手からは手綱が伸び、傍らの愛馬ならぬ愛羽の嘴へと繋がる。飛ぶ事を忘れ、大地を
駆ける巨大な怪鳥――ペコペコと名付けられた種の一羽であった。
 一人と一匹が連れ立って家屋の立ち並ぶ裏路地から這い出し、今や様々な悲鳴溢れる大通りへと
踏み出した。ルーンミッドガッツの首都プロンテラの南の大通りである。
 そこは正に戦場。死屍累々に遺体横たわる堵殺場と化していた。
「ほらほら、逃げ回れや!」
「踊れ、踊れぇ! 踊れよォォ!!」
「亡霊海賊一家ドレイク、よろしくぅっ!!」
 嬉々として人を切りつけるのは死人の群れ。スカスカと向こうが見える白骨体が、カリブの海賊
よろしくぼろきれの服を纏い頭にバンダナを巻いている。数居る動く骨のスケルトン族の中で、ご
く一部にしか現れない海賊骨。その名もパイレーツスケルトン。カタカタ鳴るぜ。
 南通りの無抵抗な商人達を手にしたカトラスで一方的に切り裂いて、背後に控える三対の強者の
為に文字通りの血路を開いていく。
「ドレイク様ー。粗方片付きやしたぜー、ドレイク様ー?」
「……うむ」
 骨の部下の声に呼ばれて、ずいと身を乗り出したのはやはり骨。コルセア帽を目深に被り、他の
骨達よりも幾分年季の入った浅黒いスカルフェイス。装飾は豪奢だが古ぼけた上着を肩に羽織らせ、
その肩には大きなカラスが一羽停まっている。そして、その足元は生前からなのかは知れぬが、松
葉杖を強引に着けた様な義足に片足が挿げ替えられていた。
 船幽霊の巣窟、沈没船ダンジョンの主――海賊王ドレイク。不死王、悪魔王、暗黒王等に並ぶ、
海の世界を統べる覇者がここに君臨している。
 徐に両手を組んで胸を張り、海賊王は辺りを睥睨し満足そうに頷く。
「世界の海は俺の海。俺の果てしない憧れさ…」
 唐突にポツリと漏らした一言に、肩のカラスがあぎゃぁっ!っと不気味な声で一声鳴いた。その
鳴き声にあわせて、散々暴れまわっていた海賊骨達がわらわらと集まり王の前に整列する。
「世界のお宝掠め取り、金銀財宝眺めての、自由気ままな海底暮らし。けれどもそれが邪魔された。
無粋な奴らに邪魔された。これは許せんことだよなぁ?」
「へい親分!」
 ――船長と呼べ。
 そんな一言と共に応答した骨の一体が、マスケット銃でズガンと額を撃ち抜かればらばらと崩れ
落ちる。ふうっと銃口からくゆる紫煙を吹き飛ばし、王が上着のポケットへと銃をしまう。
「無粋にもこの王を呼び寄せた人間共に、骨身に染みる恐怖を味あわせてやれ」
『『アイアイ、キャプテン!!』』
 この世には、魔物を呼び出す事の出来る魔力の宿った古木の枝というものがある。人は時として
それを一時の娯楽享楽私利私欲に使い、無数の魔物を人の住む世界へと引きずり出す。その大半は
速やかに町の騎士団や冒険者達の自警団などに鎮圧されるのではあるが。
 中には、こんな当たりを引いてしまう事もある。
「まったく、普段表に出ているような影武者共を呼び寄せるならまだしも。本体を引きずり出すと
は運が無いのかどうなのか…。人生は博打だなぁ野郎共?」
『『アイアイ、キャプテン!』』
 ぱさりと上着を翻しつつ、王の右腕が部下に指示を飛ばす。命じるのは無論、虐殺だ。
 立てた親指をゆっくりと地面へ差し向ける。それだけで骨達は喝采を上げて、再び無防備な獲物
へと踊りかかった。
 命を下したものは阿鼻叫喚の渦の中で、積み上げられた死体にどっかりと腰を下ろす。老若男女、
色取り取りな悲鳴の合奏を聞きながら、一人悠然とパイプを取り出し剥き出しの歯の列で咥える。
そうして、また一人視界の端で女が部下に切り掛かられるのを見ながら、涼しげに慣れた手で火を
点けて煙を燻らせた。
 平らげた煙を吐き出すと同時に、切り取られた首がぽーんと宙に舞い足元へと転がって来る。視
線を落とすと目が合った。
「お、親分てぇへんだぁ! 何か突然剣が飛んできてあっしの首が…」
「船長と呼べ」
 ズガン!っとまた銃声が鳴り響き、足元の頭が粉微塵に吹き飛んだ。それは残念な事に瑞々しく
鮮血を滴らせる女の首ではなく、カラカラに乾いてカタカタ動く部下の頭であった。
 視界の端にあったものを正面に持ってくると、そこには確かに今しがた殺されかかった女がヘタ
レており、その前には首を失った骨が頭を探してあわあわと右往左往している。
 そして、空を舞いて放ち手へと戻る円月となりし一振りの刃。弧を描いて飛来したそれを、放ち
手は容易く掴み取り、幼子を送るように手厚く鞘の中へと導き、納める。
 その男は空高く、そして逆光の中に居た。
「安息の町に突如現れた無頼者どもめ、今すぐ悪事を止めて己が領域へと帰るが良い」
「なにぃ!?」
 立ち並ぶ家屋の一つ、その屋根の天辺に立ちて背後に太陽を従えて。両腕を組みながら淡々と語
句を連ねる。人々を襲っていた他の骨達もその存在に気が付き、うちの一体が声を上げるがそれを
気にも留めずに言葉は続く。
「さもなくば、我が剣が汝ら一切を切り伏せるであろう。救いの無い悪者に下される正義の鉄槌。
人、それを『成敗』と言う…」
「おのれぃ、何者だ!!」
 思わず聞き返せずに入られない長台詞。問われたものは組んでいた両手を解いて、腰から下げた
大太刀の柄に手を載せ叫ぶ。
「貴様らに名乗る名前は無い!! ……と、あいつなら言うのであろうが、ここはあえて名乗らせ
てもらおう。トァァァァッ!」
 掛け声も高らかに屋根から飛び立って、急降下と同時…鍔鳴り微かに剣線が走る。降下先に居た
首の無い骨に向け、走る刃がその身を縦に斬り開く。着地を果たした時には白刃は既に鞘の中にあ
り、動かなくなった躯ががらがらと崩れて瓦解した。
「来いっ、ジェェーーーット!」
「クワーッ!」
 舞い降りた騎士が高らかに叫ぶと、地平の果てから嘶きと共に一匹の怪鳥が駆け寄って来る。す
れ違いざまに飛び乗って人鳥一体、武器を各々構える骨達へ向けて駆けながら名乗りを上げた。
「転空神剣、ブルー&ジェット。見参!!」
 サングラスに重厚な鎧の騎士――ブルー、そして跨るは神速誇る地を駆ける鳥――愛騎ジェット。
悲鳴を聞きつけ駆けつけた、少々都合の良い存在である。
 見参っとばかりに怪鳥が嘶きをあげ、その背中で騎士が立膝を突き立ち上がる。そして突進の勢
いから更に跳躍を重ねて加速し、無数に集まった骨たちとすれ違い様に白刃を煌かせた。翻る刃が
一閃二閃、胴や首をなぎ払い地を削りながら騎士が着地するや刀身はまた鞘の中。速さを求めれば
二の次が無いと言われる、鞘中で剣速を加速させて放たれる抜刀術。その目にも留まらぬ刃にて、
瞬く間に四体の骨が崩れ去った。
「闇を操り心を蝕むもの達を、俺は許さん!」
 立ち振る舞いはあくまで身体を開いて力は入れない。半身になって左手が腰の大太刀に添えられ
ている。それだけで周囲に近づきがたい空気の流れを纏わせて、視線は真っ直ぐに海賊の王へと向
けられていた。
 ちなみに乗り捨てられた相棒は、奇声を上げながら手近な骨の一体を突くわ蹴るわの大活躍をし
ていた。すごく遠くの方で。
 生き残りの骨がワラワラと騎士の方に集り、円陣を組んですっぽりと取り囲む。反りの入った短
剣や片手剣を突きつけながら、そうなって喧々轟々に数での優位をかさに吠え立て始めるのは世の
条理だろうか。
「ふざけたまねしてっと、いてこますぞ!」
「やられっぱなしじゃすまさねぇ!」
「むしろこの人数だ、この勝負勝ったも同然!」
 勝ったもどうぜーん!――と揃って叫びながら骨たちが中央の騎士に群がった。不死者同士に相
打ちの概念などなく、闇雲に刃を突き出しあっと言う間に骨と白刃の絡み合う奇妙なオブジェを作
り出す。こんな物の只中に居る者が無事で在る筈が無い。


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