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【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第14巻【燃え】

[3:神の人・後編 11/13(2007/06/15(金) 17:21:05 ID:0fDIHQ5k)]
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 最初にうっと呻いて、次に身を捩じらせて手の甲で目蓋を擦る。目を開ければそこは熊だった。

「そうか……。これは夢だムニャムニャ…」

 再び目を閉じようとして所へ、天井の一部からにゅっと手が伸びて、毛むくじゃらの肉球ハンド
でぺちぺちと叩かれた。叩かれた方はうーうー唸って漸く上体を起こし始める。
 そして目を開けて認識した。ああ、ここは熊の中なのだと。

「熊太郎達……、助けてくれたのか?」

 まだぼんやりとした眼を天井に向けると、其処には五つの毛むくじゃらフェイスが天井を作って
いた。見慣れた顔だ。それも当然、この熊たちは彼女の下僕であった。ルティエ雪原の白熊ビック
フットの熊太郎一号から四号と紅一点の熊子さん。五つの巨体がスクラム組んで寒さと雪片防ぐ即
席のカマクラを作り上げていた。いやこれはむしろ、クマクラ?

「ん……。五号、お前も暖めてくれていたんだな」

 傍らの存在感に目を向けて、ぽんと頭に手を載せたのはふわふわもこもこ小熊の五号。なるほど
これは良い防寒具である。ふと、五号の座っていた辺りを見咎めてみると、その下敷きになる形で
あの女服の侍際が転がっていた。目は閉じられていて意識も無いようで、しかしその頬には赤みが
差しており程よく暖められて居たのが良く判る。命に別状は無いようだ。

「う、あいつが居ない……」

 五号を胸元に抱き上げながら、きょろきょろとクマクラの中を見回す。そう広くない空間だ、目
当てのものが居ない事など直ぐにわかる。
 あの小憎らしい自分相手では本気を出さない嫌で嫌味な背高ノッポ、一体全体何処へ行きおおせ
たか。寝起き眼が不機嫌に吊り上っていく。唇もむーっと幼くへちゃむくれだ。
 するとクマクラの一角に出入り口が開かれた。探していたものの元へと導くかのように。ひっそ
りと出入り口は作られる。
 外は一面の雪景色であった。最初にこの雪原へ降り立ったときの様に、空は美しく雲ひとつ無い
大快晴。さんさんと降り注ぐ陽光が、雪原を鏡に照り返す。
 雪原に視線を戻すと、その先に何かが蹲っていた。
 大きい、けれど雪原に溶け込む目立たない氷の体毛。異常気象を招き寄せて、顔見知りの自分を
襲ったあの銀狼だ。今は力なく雪原に倒れ、牙並ぶ口元からだらしなく舌を垂れさせていた。
 一瞬死んでいるのかと硬くなったが、微弱に腹部が上下しているのを見て弛緩する。生きていて
くれた……。それだけの事なのに頬を涙が伝うのに驚いた。
 そして視線が横に流れる。雪原を、倒れる銀狼に向けて近づくものがあったのだ。
 その姿は巨体だった。彼女の知る憎らしい奴も背丈が高いが、アレはその上を行っている。そし
て、その身体は半分氷に覆われて凍結していた。ばりばりと氷と己の体を砕きながら、その巨体は
前に進んでいる。
 ボロボロと毀れていく氷と肉片。煩わしげに巨人の手が顔を覆う己の顔ごと剥ぎ取った。皮のつ
いた氷を投げ捨てて、そして掌を再び顔に翳すと淡い光が浮かび上がる。癒しの聖光の慈愛溢れる
輝きが、砕けて剥がれた肉体を再生していく。中身がむき出しだった顔にも肉と皮が戻っていく。
そこに探していた顔があった。
 ギギギっと錆付いた音が聞こえた。巨人の表情は今にも昆虫をバラバラにしようとする子供の様
な笑顔に満ちて。一歩一歩、雪原を踏みしめ歩みを進めていく。
 それを見咎めた娘は悲鳴を上げた。言葉にならない叫び声を巨人に向けて浴びせかけた。けれど
も喉が震えない。声は喉から迸らなかった。感情は爆発しているのに、恐怖と静止を必至になって
叫んでいるのに。もどかしさと悔しさが胸の中に溜まって、ぽろほろと瞳から感情の結果が流れ落
ちる。けれども声は出なかった。
 ついに、巨人は銀狼の下へたどり着いた。その丸太の様に膨れ上がった腕が巨獣の首に絡みつき、
がっちりと頭を沸きに挟み込んでしまう。両手を組み合わせて広背筋を膨らませぎりぎりと音が立
つ。頭蓋が、口蓋が、圧迫され軋んで行く破砕音。一番単純で一番危険な技、ヘッドロック。ぼん
やりと、そんな知識が脳裏をよぎる。
 本来は意識を刈り取るだけの技。しかしこれは違う。これはもう意識をなくしている相手に繰り
出している。砕くつもりでかけている。もう直ぐ、砕けて死ぬ。見知った人が死んでしまう。

「あ……ぐっ…ぅ…ぁぁっ……」

 涙は出るのに。止め処なく出ているのに。声だけが出ない。

「やめ…やめろ……、ぉぉ…っぐ…」

 あんなものは見たくないのに。見たくないのに。見せて欲しくないのに。

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!」

 あんな、あいつが悪魔の様に振舞う姿なんて、見たくなんかない。

「やめてぇ…、殺さないで……」


 気が付けば両手から力が抜けていた。

「……………………ちっ……」

 舌打ちを一つして、取り落としてしまった獲物を一瞥する。息の根はまだある微かにある。今に
も止まってしまいそうな灯火だが、そこには確かに命があった。
 忌々しげに掌が伸びて、嫌そうに唇が聖句を紡ぐ。掌に生まれたいやしの力が、銀狼を瀕死から
小康へと立ち直らせていった。
 癒しを唱えながら視線を雪原へと走らせる。仰ぎ見た視線の先では格闘娘が倒れていた。顔中を
涙でくしゃくしゃにしながら、再び熊達に引きずられて熊製のドームの中に連れ戻されていくのが
見える。どうでもいいが面倒見の良い熊たちだ。舎弟はどっちなのだか判りはしない。
 信じられない事に、神罰を迷わず代行するはずの司祭両手は、この小さな小娘の言葉で止まって
しまった。

「……姉め、二代に渡ってまでこの私を苦しめるのか……」

 誰にもわからない呟きがぼそりと毀れた。それもまた青空に抜けて直ぐに消えてなくなる。
 どうしたものかと思案に暮れる。原因を見つけたが駆除できなくなってしまったとなると、何か
それに変わる手柄でも上げなければ組織に示しがつかない。BSにも散々と愚痴と嫌味を言われて
しまうだろう。既にもう小娘に恥をかかされている。上塗りはごめんこうむりたい。

「どうしたものか……、…?」

 ふと、視界の端に何かが移りこむ。吹雪が晴れて遠くまで見渡せる様になった為に、地平の先か
ら此方にかけてくる一団が見て取れた。
 どこかで見た顔だと思えば、アルデバランにて端から叩き落された一団であった。一様に武器を
構えて叫び立てている。何か獲物でも追っているのだろうか?

「おや、あれは……」

 雪原をかけている一団の先に、彼らの追う獲物が見えた。それは小さな小さな銀狼の子供達。も
しやアレは、傍らに倒れる銀狼が隠したと言っていた最後の小銀狼達であろうか。
 シーフやローグの一団は大人げもなく、子供達に石を投げ弱らせ集団で追いたてていく。確かに
珍しい神獣の子供達、捕まえてどこかに売りさばこうとでも言うのであろうか……、!?
 そこまでぼんやりと考えていたが、不意に司祭の唇がにぃぃぃぃっと三日月に歪んでいった。
 決断すれば後は早い。ずんずんと大股で雪原を歩みだし、向かってくる小銀狼と盗賊団へと迫っ
ていく。
 よくよく考えれば簡単な話なのだ。原因のまえには元凶がある。くさいものには蓋が必要であり、
諸悪の根源は今正に目の前から近づいてきていた。


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