【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第14巻【燃え】
[25:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2008/02/04(月) 10:28:45 ID:HBE5IPFE)]
なんの名前もないただの草原。
その草原に紛れるように一本の剣が刺さっている。
美しいまでに磨かれた銀の刀身には、大小様々な傷が刻まれていた。
この剣を知る人は偉大なる英雄の剣だという人もいるし、また在る人は王族の剣だとも言う。
それらは全て間違いではなく、正解でもない。
この剣の持ち主は最後まで気高く、誰よりも優しかった騎士の中の騎士。
しかし、誰も彼を知る人は居なかった。
今この剣の前に老婆が静かに佇んでいる。
紫の法衣から覗く幾重にも刻まれたシワだらけの顔は優しげで、その人がどんな人でどんな人生を歩んで来たのかは想像にかたくない。
「あれから20年、本当に色々な事がありました」
細い喉から紡ぎ出された声は柔らかな風に乗って剣へと届く、それは諭すようでもあり語りかけるようでもある。
剣は何も語ることなく、朝日を浴び美しく輝く。
鳥の鳴き声だけがまるで老婆への返事だと言わんばかりに草原に響いた。
「貴方が最後に遺したように、私は精一杯生きました。」
老婆は瞳を閉じ、ゆっくりと再び語り始めた。
もしかしたら今までの人生を振り返っているのかも知れない。
「楽しかったこと、苦しかったこと本当にたくさんありました」
剣の持ち主が健在だった頃、老婆と剣の持ち主は夫婦だった。
最初はふとした出会いだったけど、多くの出会いや経験を通して結ばれた二人。
誰に対しても優しくそして美しい女性と、人をからかうのが好きで周りを楽しませた男性。
決して楽しい事だらけでの人生ではなかった、逆に苦しい事の方が多かったと彼と歩んだ人生を振り返りながら老婆は思う。
「でもね、私は貴方の妻になれて幸せでしたよ」
まるで愛おしい人に愛を囁くように老婆が皺だらけの顔で剣に微笑む。
「もうすぐ貴方の傍にいけそうです」
ゆっくりと老婆は剣に近寄りもたれかかる。
老婆の細い体を受けても尚、剣は倒れることなく。
老婆を支えようと地面に強く突き刺さったまま微動だにしない。
「また会えた時は、私を貴方の妻にしてくれますか?」
やがてその言葉を最後に老婆は長い眠りを迎えた。
長い長い眠りについた老婆の寝顔は余りにも穏やかで、微笑さえ浮かべている。
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