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【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第14巻【燃え】

[22:ブルー&ジェット4/4(2007/11/27(火) 23:44:12 ID:OlhyQDOY)]
                   4

 最後に残った最大の障害が、のんきにパイプを吹かしながらつらつら語る。迫る騎士はまだ遠く、
もう一吹き二吹き位する余裕はありそうだ。しかし、海賊の王は今まで腰掛けていた屍の上から重
そうな腰を上げると、燻らせていたパイプからまだ新しい葉を底を叩いて捨ててしまう。そうして
パイプを大事そうに上着のポケットに仕舞い込みながら、血の色に染まった路地を騎兵が駆けて来
るのを眺めた。アレだけ暴れたと言うのに元気なものだと、浅黒いしゃれこうべに思わせた。
 暴徒の突撃にも似た爆走が、接敵寸前びたりと止まる。
 手綱を片手で引き上げて愛騎を停止させ、空いた手は腰の刀を鍔元を握り締めて、憎さと怒りを
込めた眼差しを海賊王に向けていた。多くの無抵抗な人を部下を使って切り裂いた悪逆として、こ
の騎士には目の前の存在が許せなかった。
 だが――
「だが、あえて問う海賊の王よ。ここで互いに引きはしないか?」
「はっ、ははははははははははははは!!!!」
 返答は爆笑だった。ちょっと待てと言う様に片掌を突き出してカタカタと顎を鳴らす。傲岸不遜
の塊だったあの王が目元を覆って背を反らし、ゲタゲタゲタゲタ壊れた様に笑い声を上げていた。
この世にこれ以上面白いものは無いと、その時の彼の空洞の頭蓋には響き渡っていた。
「はー……。笑った笑った。あれか、こっちもそっちもお互い殺し殺されしたからここら辺で手打
ちにしようじゃありませんかって訳か」
「ああ、そうだ。元より此度の事は此方の側――人の戯れが発端であろう事は用意に想像が付く。
勿論、その戯れの発端者が当に躯と成り得ている事も」
 其処まで分かっているなら行幸行幸。ぱちぱちと二度拍手して、躯の船長が死体の山から腰を上
げた。ぽんぽんと上着越しの尻を叩いて、最後に被っていたコルセア帽のずれを直す。船長たるも
の身だしなみには気をつけなくては部下に示しが付かないのだ。今部下は全滅しているが。
「ただの人間数十人とこの俺の子分共を同等に考えろと? そいつは無理な相談だなぁ。こんな、
大陸のど真ん中に呼びつけておいて、腹立ち紛れまで止められ、あまつさえ子分も幹部も皆殺しと
来た。これに怒髪天しない馬鹿は居ない。ああ、居ないね、船長的に」
 少しだけ愉快そうに、言葉に調子をつけて船長が語る。肩を竦めてやれやれと頭を横に振り、遠
くを見つめる目で騎士の背後に連なる死山血河を眺めた。とてもではないが、釣合うとは思えない。
 だが、それでも騎士はその思いを受けて直、己が心中を語りぶつける。
「其処をまげて、提案したい。双方同族を斬られて憤慨していた。どちらもこれでは足りぬと思っ
ているだろう。其処をまげて、あえて提案したい。どちらの者も不満が残る今であればこそ、ここ
までで手打ちにしていただきたい」
「ふざけるな!!」
 その提案に、返って来たのは激怒であった。
 ふざけて貰っては困る。自分達の世界は自分を残して全て奪われたと言うのに、貴様らの世界は
まだ大半が生き残り遠巻きに此方を窺っているではないか。これでは不公平なのではないか。
 そんな言葉を連ねられ、騎士が騎乗したままで微かにたじろぐ。
 世界の規模が違いすぎるなどと言う事は、目の前の王にとっては話にもならない小事であるらし
い。同じ人数ではなく、見合うだけの対価をよこせと言う。先程も言っていたが同等に考えるなど
出来はしないのだという。
 其れほどまでに部下に価値観を抱いていたとは、正直騎士にとっては意外に見えた。何人か自分
の手で粉々にしていたし。
「俺の家族に手え出しといて、そこ等の雑草幾許かと同質で手打ちにしろとたあな。海の男舐めん
のも大概にしとけや、一世紀も生きていないようなクソガキ共が」
 家族――そうか、と思わず納得した。
 納得したが今度はたじろぎはしなかった。手綱を握る手に力を込めて納刀したまま鞘の鯉口を下
げる。得意の抜き打ちを放ち易くする為に。
「互いに譲れなくなったな」
「初めから、譲り合えるもの等無い。後で元に戻るとは言え、仇は仇だ取らせて貰おう」
「ならば此方も、関係なく散っていった同胞達の仇を討つ」
 家族のカタキを同胞のアダを、それぞれが望む。本来ならば、交わる必要も無かった二つの線が、
今は奇しくも複雑に絡み合っていた。
 正義の味方の様に颯爽と現れた騎士と、悪逆非道を尽くしていた海賊達。一見すると単純な構図
も、今こうして相対していれば複雑極まりない。
 正しき義と書いて正義と読む。打ち倒された家族を思い、住処から引きずり出された事を悪とみ
なして反撃する。例えその後に行過ぎたとしてもこれは悪なのであろうか。
 悪い行いと書いて悪行と読む。無秩序に引き裂かれた人々を見過ごせず、自らの技量によって襲
撃者を撃退する。家族を踏み躙られた者にとってこれは善なのだろうか。
 正義とは生き物なのであろう。牙を持ち爪を尖らせた猛獣なのであろう。そして時に噛み合い、
殺し合い、負けた方を悪と定める。善悪とはそんな二つの名を持つ宿命の獣達なのだろう。
「転空真剣ブルー&ジェット、押して参る」
「キャプテン・ドレイク。受けて立とう」
 ここに在るのもまた獣だ。
 自信の胸に湧いたものを、ただ只管に貫こうとするだけの獣。もしかすると、善悪など区別する
事無く、漠然と暴れたいだけの獣かもしれない。が、其れもまたどうでもいい事と風と共に流れる。
 不意に。正に不意に、愛騎の腹を蹴り騎士が前進を再開した。海賊の王もまた不意の突撃に戸惑
う事無く、ポケットに入れていた銃とは違う銃を腰の後ろから取り出した。無骨で大きな二連筒の
ショットガンを銃身と銃握の丁度境目で中折れさせて、ポケットから取り出したシェルを左右の銃
身に直接収める。用意万端と銃を元に戻すと、駆けて来る騎士は丁度相棒の背の上に片膝をついて
立ち上がったところであった。
 さあ、激突までもう直ぐだ。突進の勢いそのままに跳躍して刀を抜き放ち、手にした銃で文字通
り迎え撃つ。その準備がお互いに整った。斬るが早いか撃つが早いか、後はそれだけ。
 今ここに、誰も望みはしない不軌遭遇最終戦の幕が切って落とされた。
「一つだけ感謝しよう。我々を呼び出した玩具でも町に現れた害虫でもなく、一介の憎悪と憤怒を
ぶつける敵として扱ってくれた事に。其処にだけは一家代表して謝辞を送る」
 待ち構える船長に向けて、騎士は既に愛騎の背から跳躍していた。相対者の口が何事かを紡いで
いたようだが、旋風よりも早く飛ぶこの身には聞こえはしない。返答する必要があるとも思えぬ。
放って置いて自分に繰り出せる最速を繰り出してしまえばいい。気にするまでも無い些末事だ。
 しかし、騎士は叫んでいた。向こうに聞き届けられるかなどは、思考の範疇にすらない。それで
も叫ぶ、腹の底から。
 剣客で在るならば、刀振るう剣士であるならば、この一言は宣言せねばならないだろう。
 音斬る刃に想い乗せ、技振るう度在るべき終局が待つ。
 この一振りに己の旅路を込めて、刹那の戯れを悦に濡らす。
 故に叫ぶ――

「切捨て御免!!!」

 結末、描く事こそ無粋。

                                         未完


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